[移住者インタビュー]佐々時間
歴史を学ぶことで景色の見え方が変わり、町への誇りが生まれる。
地域で暮らす人々が積み重ねてきた歴史。それを改めて学んだ上で景色を眺めると、何気ない山や川から、雄大な物語が見えてくる。「この佐々川には明治時代まで橋がなくて、昔は飛び石をトントンっと渡っていたんですよ。旅人やお殿様はもちろん、江戸時代、測量で訪れた伊能忠敬も、日記に佐々川を飛び石で渡ったと書いています」。そんな佐々町の歴史を軽快な語り口で教えてくれる郷土史家・朏由典さん。慣れ親しんだ生まれ故郷への想いから、2004年に郷土史を執筆。それがきっかけとなり、地域の歴史を解説する講師として小学校の授業に呼ばれるようになった。
「中心部を流れる清流の佐々川に着目すると、町の歴史が見えてきます。佐々町は室町時代から江戸時代にかけて大規模な干拓事業があり、田んぼの整備が行われました。海の恵み、山の恵みのおかげで人々は豊かに暮らすことができたんですね。そして明治時代は炭鉱で大きく栄え、いち早く鉄道が敷かれて石炭を運んでいたんですよ」。地元の歴史を語る朏さんは、心から楽しそうな表情。自然の中で育った思い出話も交えながら解説する。「佐々川では、3月はシロウオ、6月から鮎、10月にはうなぎが獲れます。そうした生き物との関わりを通して、小さい頃から季節の変化を感じていました」。佐世保市と隣接した佐々町は、都会的な利便性と自然の温もりが両立した地域。住みやすく子育てにも適した場所で、移住者も増加傾向にある。
朏さんは、佐々町には外から訪れた人を受け入れる風土があると語る。「かつては平戸藩との関わりも深く、歴史的に見ても様々な地域から人が訪れる場所でした。私の先祖も四国からの移住者ですが、すっかり根を下ろしています。毎日の楽しみは、堤防道路の散歩。この付近は、かつて大海原の真ん中だったことを考えると、夜の星空もより輝いて見えますね」。長く住む場所だからこそ、歩んできた歴史をきちんと知る。それが未来の暮らしへの糧となるはずだ。